北朝鮮のリイルファン氏11か月ぶり復帰 金正恩体制で再び存在感
北朝鮮労働党のリイルファン(李日煥)党宣伝秘書が、約11か月の沈黙を経て中央政治の表舞台に復帰した。韓国の独立系メディア「サンドタイムズ(ST)」が10日に報じたところによると、朝鮮中央通信が公開した党第8期第13次全員会議の写真には、主席団前列に座るリイルファン氏の姿が確認された。突如として姿を消した高官が再び姿を見せた背景には、金正恩体制下の人事運用や内部統制の複雑な力学が透けて見える。
金正恩体制下で再登場したリイルファン氏 失脚と復権の背景
リイルファン氏の最後の公の活動は2024年1月2日、金正恩総書記が「努力革新者・功労者」と記念撮影を行った場だった。その後、彼は金正恩の随行員リストから姿を消し、主要行事にも登場しなくなった。この動きに韓国国家情報院は注目し、4月には「リイルファン、チョ・ヨンウォン両秘書の動向を注意深く観察している」と発表していた。消息筋によれば、リイルファン氏はその間「不正行為」により職務から外され、「革命化再教育」と呼ばれる思想的訓練を受けていたという。
この「再教育」は北朝鮮において粛清や処刑に次ぐ厳罰に位置づけられるが、同時に再起の可能性を残す制度でもある。リイルファン氏は党中央宣伝・扇動部の責任者として、党の思想統制に大きな影響力を持ってきた。彼が再び表舞台に姿を現したことは、この「革命化」が象徴的なペナルティにとどまり、金正恩指導部が完全な排除よりも再利用を選んだことを意味している。
その背景には、金正恩体制の特徴でもある「統制と弛緩の反復」がある。金正恩氏は2021年以降、腐敗構造を浄化する目的で度重なる人事刷新を断行してきたが、実際には経験豊富な幹部が再び起用されるケースが多い。リイルファン氏の復活は、体制の安定を最優先する現実的な判断の一環として理解できる。
粛清と再教育を経て権力中枢へ 北朝鮮幹部人事の不安定さ浮き彫り
消息筋によると、リイルファン氏にかけられた疑惑は軽いものではなかった。党宣伝部が中国側と非公式取引を行い、報告なしに外貨を蓄えた疑いのほか、党予算を私的ネットワークに流用したという証言もある。さらに、妻が運営する関連企業を通じて外国製機材を密輸したとされる事例まで浮上していた。こうした行為は通常なら「反党行為」とされ、処罰対象となる。それにもかかわらず、彼が「革命化教育」で済んだのは異例である。
人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真注目すべきは、彼が過去にも一度同様の処遇を受けたことだ。2002年、青年同盟第1書記時代に公用車を自ら運転して事故を起こし、同乗者が死亡するという事件を起こした。当初、運転手の過失として報告したが、真相が露呈して金正日総書記の怒りを買い、地方の鉱山で「再教育処分」を受けた。それでも後に党中枢に復帰した“前例”があったことが、今回の“第二の奇跡”を可能にしたとも言われる。
彼の「不死鳥」的な生還を支える要因として、故・金正恩氏の母・高ヨンヒとの縁も指摘される。1998〜2001年、リイルファン氏は青年前衛組織のトップとして高英姫の神格化キャンペーンに深く関与し、その際に金正恩氏とも直接接点を持つようになったという。当時、高ヨンヒが彼を自宅に招き、若き金正恩氏と食事を共にさせたとの証言もある。こうした“家族的信任”こそが、再び体制の中心に戻る後ろ盾になったと見られる。
今回の党全員会議では、軍や対南政策を担う主要幹部の多くが後列に移され、リイルファン氏の姿が前列に戻った対比が鮮明だった。北朝鮮当局は会議の議題として「2025年度政策総括」や「第9回党大会準備」を掲げたが、実際には人事や組織改編に関する不可視の議論が進んだとみられる。リイルファン氏の復権は、金正恩体制が示す“統治の柔軟性”と同時に、内部の不安定さを浮き彫りにしている。彼が長く生き残るのか、あるいは再び失脚するのか――その行方は、北朝鮮の権力構造を読み解く試金石となろう。
